さらば、トーチャン、カーチャン、そしてロンよ

トーチャンとカーチャン、そして愛犬ロンの散骨の日がやって来た。この春トーチャンが死んだときに、3人一緒に海に撒こうというのは決まっていたけど、どうせならとカーチャンの三回忌を家でできて、季候もいいこの時期にしたんだ。
先週くらいから急に寒くなり、また前日の夕方から深夜にかけても雨がざっときたりしていたので少し心配だったが、朝起きると明るく穏やかな日が差していて、風もほとんどないみたいでひと安心。暖かいというよりむしろ暑いくらいだった。
本当はウチボウズも連れていきたかったんだけど、小さなボートなので、小学生以下の子どもは乗せられないとのこと。万が一の時には自分で責任を負うからなどと何度か交渉してみたが、天竜川の事故があったこともあり、どうしてもダメだった。で、ウチボウズは市のセンターを通じてお願いした有償ボランティアの方に預かってもらうことに。家から歩いて数分のところにちょうど良い方がいらして本当に助かった。先日、顔見せを兼ねた打ち合わせの時にもウチボウズはまったく人見知りや場所見知りをせず、すぐに遊びだしたとのことなので、大丈夫だろうとお願いすることにしたんだ。
ボートは、江ノ島境川の河口付近から出るので、片瀬江ノ島駅でオイラたち2人と、一緒に散骨するネーチャンと待ち合わせた。ネーチャンとはここしばらく、このことでFAXや電話でのやり取りはしていたが、実際に顔を合わせるのはカーチャンの葬式以来。相変わらず痩せてはいたが、元気そうだったし、仕事もちゃんと見つかったみたいで、なにより。
出航予定は11時だったが、10時半前にはボート乗り場に着いてしまった。葬儀会社の人もちょうど来たし、準備もできているということで早めに出航することに。ライフベストを着て、乗り込んだのは、屋根も何にもついていない本当のモーターボート。我々3人と、葬儀会社の人、運転する人5人でいっぱいいっぱいの感じ。河口を出るまではゆっくり走っていたし波もなかったので全然平気。途中、ボラがいっぱい飛んでいるのが見えた。
しかし、海に出ると、やはり小さいとはいえ波はまったくないわけではなく、小さいボートはそれなりに揺れる。散骨する江ノ島烏帽子岩の中間地点くらいまで20分もかからなかったけど、乗り物に弱いオイラは、それだけでちょっと気持ち悪く。あとで聞くと、ネーチャンも酔ったらしい。乗り物酔いするのは家系かも。
散骨場所に到着すると、葬儀会社の人が、砕かれて小袋に入いれられた3人の骨を取り出す。トーチャンはさすがに量が多く、1人で一つのカゴに、カーチャンとロンがもう一つのカゴに入れられた状態。ネーチャンはトーチャンの骨は撒きたくないということで、オイラとオクチャンでとーちゃんの骨を撒く。
散骨のためには粉骨処理をするということだったので、さらさらの粉状になっているのかと思ったら、袋に入っている骨はもっと大きく、少し大きめの砂ぐらい。これでは海に漂うというよりとりあえずはこの場所の海の底に沈むだろうなという感じ。「じゃあなトーチャン」とか言いながら撒き終わって、カーチャントロンのも少し撒かせてもらおうかなと思ったら、すでにボートの反対側にネーチャンが全部撒いてしまっていた。これはなんか心残り。せめて形だけでもカーチャンとロンの骨に別れを言いたかったな。
その後、オイラが米沢から買ってきた酒(東光)やネーチャンが持ってきたお菓子、ロンのためのかっぱえびせん、そして葬儀会社の人が用意した花などを撒く。そして、撒いた場所の周りをボートで3〜4周回った。オイラは、また何度か「じゃあな」とトーチャン、カーチャン、そしてロンに別れを告げた。

そして「それではよろしいですか。ではこれから帰港します」とのことで、また20分ほどかけてボート会社に戻り、それで散骨の儀は終了となった。
実際に散骨にかかった時間は20分もないのではないか。それでいいといえばいいんだけど、あっけないと言えばあまりにあっけない感じではあった。オクチャンは、葬儀会社の担当者がもうちょっと気がつく人だったら少しは違っていたんじゃないかと言っていた。まあ、言われてみればそうかもしれない。けど、オイラ自身がこういうあっけなさを求めた部分もあったようにも思う。ネーチャンも何も言わなかったところをみると、同じような思いだったのかもしれない。
とにもかくにも、まずはこれでひと段落。あとは、生きているオイラたちがしっかり生きていくことがなにより大切だ。
その後、ネーチャンを家に連れてきて、ウチボウズと初対面。最初は少しビビっていたウチボウズも、やがてすぐに平気に。バイトでベビーシッターなどをやっていたネーチャンも大人の男は嫌いだけど、赤ん坊は大丈夫のようだった。ミニカーや絵本などもいっぱい持ってきてくれた。ウチボウズが昼寝から覚めたあと、少し一緒に遊んでたけど、ネーチャンが遊んであげるというより、ウチボウズがネーチャンに、家にあるおもちゃの遊び方を教えてあげているような感じだった。その2人の後ろ姿を見たときが、今日いちばん、一緒に散骨できて良かったなと思えたときだった。

夕方、そろそろ帰るというネーチャンを、3人で見送りがてら、一度海に出て、あの辺に撒いたんだと場所を教えてあげた。「だったらここまで流れてくるかもな」とネーチャンはつぶやいた。ネーチャンは、オイラが用意したタタミイワシやジャコなどのお土産を嫌がるでもなく、オクチャンに向かってだけど「かえって、ありがとう」と礼を言って帰って行った。いつになるかわからないけど、またウチボウズとあってもらえる日があるだろうな、と思えて、オイラも少しほって家路についた。