青年座公演「千里眼の女」を見る

新宿の紀伊國屋ホールで劇団青年差公演「千里眼の女」を見る。
これは、今からほぼ100年前に起きた、御船千鶴子という超能力(透視)を持った女性を巡る、学者同士の論争や、マスコミの狂乱ぶりを描いた作品。自ら求めたわけでもないのに、特殊な能力があるばかりに注目の的となり、好奇の目で見られたり、思いも寄らぬ批判にさらされたりして、社会というものに押しつぶされてしまった一人の女性の悲劇といえるだろう。
千鶴子を取り巻く人たちの思惑が時とともに否応なく変化していってしまうあたりなど、消化不良の感もなくはないし、作品の性格上、仕方ない部分もあるにせよ、舞台全体がいつもの青年座に比べると暗くよどんだような感じもした。
しかし、千鶴子が心から信頼し、たぶん思いも寄せていた東大の福来助教授に、「せんせ〜い、元気ですか〜」とテレパシーで思いを送ろうとするシーンは胸が痛んだ。何度か同じようなシーンを繰り返すことによって、千鶴子の孤独と悲しみが徐々に深まっていくように感じられた。このあたり、演出・宮田慶子のさすがの手腕だといえるだろう。また、千鶴子役の勝島乙江の小さく透き通るような声が、その思いをさらに増幅させた。HPを見ると、彼女は今年入団したばかりの、まだ準劇団員だとか。また一人、ちょっと異質な、将来楽しみな女優が出てきたな。その彼女を主役に抜擢した青年座という劇団の勇気と“若さ”にも賛辞を送りたい。