文学座アトリエ公演「崩れたバランス」

「現代ドイツを代表する劇作家ファルク・リヒター。その代表作日本初演!」と銘打たれた公演。
舞台は、アトリエの中央に細長く置かれ、客席はその両サイドから見下ろすようなつくりに。
現代ベルリンのクリスマスイブ。外は猛烈な寒波で人が次々に死んでいるという。そのなかで、さまざまな人々のやりとりが断片的に描かれていく。どこかで「ドイツ演劇版「バベル」だ」というようなことを見た気がするが、まあそんな感じかもしれない。
病院で息子が訪ねてくるのを待つ年老いた母、父親が迎えに来てくれるのを待つ子供、恋人とのよりを戻そうと必死な劇作家、恋人の連れ子とうまくいかない女優、夫が寝ているときに別の世界に行ってしまっていると不安に駆られる妻……などなど、それぞれの場面はばらばらなんだけれど、人間関係は複雑につながっていたりする。
しかし、だからといって話がどこかに収斂していくということはない。ラストは、空港の診療施設のようなところに集まってくるけれど、それぞれの話はばらばらのまま。
ここに登場する人たちに共通するのは、人間関係への満ち足りなさ。自分はもっと愛されるべきだという思い。しかしそのくせ、ぬくもりや愛の行為に意味を持つことをいやがる。抱擁や口づけは、ただそれだけのもので、それ以上に関係が深まることを避ける。
寂しいくせに深く関わることは拒絶する、現代人の人間としてのおかしさを表現しているのだろうか。表題の「崩れたバランス」とは、そうした人間関係とか、人間としてのあり方のバランスのことを指しているのだろうか。
狭いアトリエの舞台に、総勢15名の役者が入れ代わり立ち代わり出入りするのも、現代の混沌とした状況をどこかで表しているようにも思える。だとしたら、彼らの発する大音量の怒鳴り声に耳をふさぎたくなったのは、ある意味で、この芝居の意図を体感したということなのかもしれない。